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日本人は“フェルメールブルー”と“引き算の美学”に惹かれる? [私的美術紀行]

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★「手紙を読む青衣の女」(↑修復後と↓修復前)
(1662-65年頃:アムステルダム国立美術館蔵)

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現在渋谷のBunkamuraで開催中の「フェルメールからのラブレター展」に出品されている作品は、今回の緻密な修復作業によって、画面にあふれる穏やかな光が醸し出す静謐さと、高貴さと精神性まで感じさせる独特の“フェルメールブルー”の魅力が見事に甦っている。

衣装だけでなく、右下の椅子の側面の釘など細部の表現も甦らせた修復の成果を会場で確かめることができる。

Photo by NHK映像(修復後)と絵はがき(修復前)


絵の具を保護するために使われていたニスが変色して黄ばんでいた修復前の作品と見比べると、アフガニスタン原産の高価なラピスラズリーの青絵の具『ウルトラマリンブルー』へのこだわり がよくわかります。

女性は
明るい窓辺で手紙を読んでいるように見えますが、この作品よりも前に描かれた「窓辺で手紙を読む女」と違い、光を演出する窓やカーテンは実際には描かれていません。

シンプルな構図で描かれた一心不乱に手紙を読む女性。
その表情や手から彼女の高揚感が伝わってきます


早く実際の作品の前に立ってみたい気持ちをおさえて、今回はもう少しフェルメールについて知識を深めてから美術館へ出かけたいと思います。

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★天然ラピスラズリー★


東京では、6月にはフェルメール作品がほぼ同時期に上野で開催されるふたつの美術展で鑑賞できるということで、フェルメール関連情報を目にすることが多くなりました。

それにしても、フェルメールは自分も含めてなぜこれほど日本人に人気があるのか?

私は以前からその理由が気になっていました。

フェルメール人気の大きな要因として、“フェルメールブルー”の魅力は勿論ですが、画家自身の生涯に不明な点が多く神秘的なベールに包まれており、作品数も少ないこと、他のヨーロッパ古典絵画と異なって日本人にとってなじみにくい宗教画や神話などをテーマにした歴史画がフェルメールの作品には殆どないなどがあげられます。

さらに、手紙を読み書きしていたり、家事をしている市井の女性の日常風景などが作品のテーマになっており親近感と同時に私たちとの時代の隔たりを感じにくくしていることもあるでしょう。

※実は、一見日常の光景を写実的に描いたように見えるオランダ風俗画の多くは、教訓や格言に基づく寓意画なのだが、私たちがその意味をよく知らなくても十分鑑賞できる


しかし、昨年7月にオンエアされたNHK「日曜美術館~手紙が語るフェルメールの真実」という番組のビデオを見返して、日本人の心に一番響いているのは、フェルメールの“引き算の美学”では?と思うようになりました。


幻想的な光景を細密に描くシュルレアリズムの画家サルバドール・ダリ(1904-1989)は、フェルメールの熱烈な崇拝者で、フェルメールの作品をモチーフに制作したり、「レースを編む女」の『贋作』(ルーヴルから正式に許可をとって模写)も試みています。
そのダリは、
フェルメールには、完璧なものをなおも完璧にしようとする熱狂と恐ろしい苦悩があった。彼は何度でも飽くことなく書き直したと述べているそうです。
(小学館「西洋絵画の巨匠」より)

たしかに、フェルメールの作品は、X線で調べると、一度はバックや壁に描いた地図や小物などを塗りつぶした痕跡が認められる作品が多いのです。私が、2008年のドイツ旅行で鑑賞した2作品もそういう作品でした。


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★「窓辺で手紙を読む女
1658-59年頃:ドレスデン国立絵画館蔵)

1742
年にこの絵がコレクションに加わった時は、レンブラントの作品とされていた。
フェルメールの真作と認められたのは1858年とのことだが、第二次大戦後はソ連軍によってモスクワに持ち出され10年後に旧東ドイツに返還された波乱の人生(?)を歩んでいる。

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★この作品をX線で調査すると、壁には、“恋文”を暗示するキューピッドが描かれていた痕跡(青いイラスト部分)があるという。

Photo by
 NHK「日曜美術館」


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絵はがき★「真珠の首飾りの少女
1662-65年頃:ベルリン国立絵画館蔵)

鏡を見ながら、首飾りを着けようとしている少女が描かれているが、壁に架けられた鏡が小さすぎる気がするし、そもそも少女の視線は鏡を覗いているようでいて宙を漂っている?

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★この作品も壁に飾られていた地図を塗りつぶしている。
消した地図を合成した画像と比較してみると、地図がないバージョンの方が少女の可愛さが引き立つ?

Photo by NHK日曜美術館」

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世紀のオランダでは、ひとむかし前の地図をインテリアとして飾るのが流行していた。といっても古地図ではなく、今風の室内装飾用アレンジしたものだったらしい。


さて、「日曜美術館」に出演されていた東北大学の尾崎彰宏教授は、「フェルメールは、複雑なものをいかに単純化するか、単純さを通して時間の長さや空間を感じるように仕組んだ」とコメントされています。
また、フェルメールの「デルフトの眺望」に感動して実際にデルフトまで足をのばしたという染織家の志村ふくみさんは、「そぎ落とすことで内容がふくらみ、品格がある。 “引き算の美学”は日本の茶の湯や和歌などにも共通する」と語っています。



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絵はがき★「デルフトの眺望
(1659-60年頃:マウリッツハイス美術館蔵)

実物を見なければ感じられないという深みのある空の青や川の水面にも『ウルトラマリンブルー』が用いられている。『世界で最も美しい風景画』はオランダに出向いてでも絶対見たい作品!

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世紀のデルフトは、東方交易を独占していたオランダ東インド会社の拠点のひとつとして巨万の富を集めていた。フェルメールにしては珍しく大型のこの作品は、19世紀に画家が再評価される契機となった作品といわれる。必ずしもデルフトの実景に忠実に描かれているのではなく、いわば「理想化された都市の景観」。


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Photo by NHK日曜美術館」


1675年、享年43歳で亡くなったフェルメールは、夭折した子供ふたりが埋葬されていたデルフトの旧教会に埋葬された。
フェルメールの没後、11人の子供(内10人が未成年)が遺された。画家の死の翌年、妻のカタリーナは自己破産を申請し、生物学者で顕微鏡の製作者レーウェンフックが遺産管財人に任命された。


ところで、『ウルトラマリンブルー』にこだわったフェルメールが生まれ育ったデルフトには、交易都市ならではの特産品があります。

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Photo by NHK・TV映像

デルフト焼きは、17世紀初頭に人気の高かった白地に青色の彩色を施された中国や日本の磁器をオランダ風に再現したことから始まったもの
このデルフトブルーも日本人にはおなじみの色遣いだが、フェルメールもまたこの青に魅せられた一人だったという。



《おまけの情報》
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★「真珠の耳飾りの少女
1665-66年頃:マウリッツハイス美術館蔵)

この作品も最近の修復で鮮やかな『ウルトラマリンブルー』が甦っているが、上の画像のように後世の修復でしみと誤って修復された口元が元に戻されたそうだ。この画像では、わかりにくいが、美術館で鑑賞の際は、少女の口元に注目してみたい。


フェルメール全点踏破の旅 (集英社新書ヴィジュアル版)

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  • 作者: 朽木 ゆり子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/09/15
  • メディア: 新書

「真珠の耳飾りの少女」をモチーフにした小説や映画の影響で、少女はフェルメール家の女中と思いこんでいる人が多いかもしれないが、肖像画の形をとった“トローニー”と呼ばれる風俗画に分類される。画家の想像で描いたのではなくモデルはいたと思われるが、モデルを描写するのが目的ではないのでおそらくその人物をそっくりには描かなかったのでは、と朽木ゆり子さんは述べている。


フェルメール巡礼 (とんぼの本)

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  • 作者: 朽木 ゆり子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/11
  • メディア: 単行本


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コメント 1

占部聰長

フェルメール・ブルーはフェイク(virtual)/誰も指摘していない

確かにこのブルーは人間に衝撃を与える。それは宝石のラピスラズリーを使用しているからである。青絵の具「ウルトラマリンブルー」である。しかし、これは絵画の世界の中だけの虚構「フェイク(virtual)」である。絵の中のモデルの女性のスカートは当時は存在しない布地である。この女性のスカートの布地に「ウルトラマリンブルー」を着色・定着することは不可能である。「洗濯すれば取れてしまう」というような無粋な意見を誰も言わない。この色が布地に定着することができるようになったのは戦後の化学染料が発達した時代まで待たなければならなかった。この画材を利用したフェルメールを賞賛することに依存はないが、これが虚構の絵画であると指摘する人は誰もいない。私が始めてだと思う。このような意見を言うことは無粋なことだろうか。「印象」だから虚構でよいのかも知れない。フェルメールは「印象派」とは誰も言わない。
「青色」は人間に衝撃を与える。「北斎ブルー」も同様である。「ベロ藍」が日本に入ってきた時、高価だったが北斎はどうしても使用したかったので「ベロ藍」を「富岳三十六景」で衝撃的デビーをさせた。実際、江戸庶民に衝撃を与えた。
現在はあらゆる色が繊維に染色可能な時代になった。最近の10年で256色をインクジェットの染料を布地に直接印刷が可能になった。しかし、アパレル業界のデザイナーの中にはフェルメール・北斎がいないので、相変わらず地味な売れるデザインしか市場に投入されない。アパレルのデザイナーはvirtualがrealになったことを認識していないバカが多いのである。

by 占部聰長 (2018-11-12 02:17) 

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